──2020年、ベイシアグループに転職された決断の背景は?
コロナ禍となって、人々が不便や窮屈さを強いられる日々が始まりました。そうした日々を過ごすうちに「いまこそITの力で世の中を良くしたい」という思いが自分のなかで強くなっていきました。

そんなことを考えていたときに、カインズやワークマンなどを束ねるベイシアグループの土屋裕雅会長に出会ったのです。2018年に「IT小売業宣言」を掲げた人です。面談で「日本の企業はいま本気でデジタル変革を進めないと、世界に取り残される」と熱く語る姿を見て、同じ方向を向いていると思いました。それでオファーを受けたのです。

入社後すぐ、もともと予定されていた公式アプリローンチに向けた準備に取り掛かり、公式アプリの公開後はデジタルポイントプログラムの提供を開始しました。

2021年10月時点でベイシアの主要顧客におけるアプリ利用率は約8割。大手食品スーパー7社平均の利用率が63%であるなかで、トップの評価を受けました(※)。ローンチから約1年という短期間で成果を出せたことは自信につながりました。

実は僕のキャリアのスタートは小売業でした。新卒でマツモトキヨシに就職したのです。店頭の特売商品や販売価格を店舗の裁量で決めていくなかで、勘に頼るのではなく、きちんと理論を勉強したくなった。それでマーケティングを学ぶためにアメリカに留学しました。

──留学の集大成としてMBAを取得されました。
僕が留学した1990年代後半、アメリカはITバブルの真っただ中にありました。アメリカンフットボールの決勝戦「スーパーボウル」のテレビ中継も、2000年にはスポンサーの半数以上がITベンチャー企業に。耳慣れない名前の会社が、世界一高額と言われるCM枠にジャブジャブお金を使っている。すごいエネルギーを放ちながらIT産業が生まれる様を、目の前で見た気がしました。これからのビジネスはITで進化していくのだと確信しましたね。留学での一番の成果は、MBAを取ったことより、そうした未来に気付けたことだったと思います。

株式会社ベイシア マーケティング統括本部本部長/デジタル開発本部本部長 亀山博史さん<br />
1995年マツモトキヨシ入社。1998年よりアメリカ留学。MBA取得。帰国後、デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)、富士通でITコンサルタントとして活躍。アマゾンジャパン(化粧品部門のトップ)、スターバックスコーヒージャパン(テクノロジー部門のトップ)を経て、2020年10月より現職。デジタル変革を推進中。
株式会社ベイシア マーケティング統括本部本部長/デジタル開発本部本部長 亀山博史さん
1995年マツモトキヨシ入社。1998年よりアメリカ留学。MBA取得。帰国後、デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)、富士通でITコンサルタントとして活躍。アマゾンジャパン(化粧品部門のトップ)、スターバックスコーヒージャパン(テクノロジー部門のトップ)を経て、2020年10月より現職。デジタル変革を推進中。
──それで、日本に戻ってITコンサルタントに?
コンサルティングファームに所属して、ITコンサルタントとして働きました。企業の課題解決に向けてIT戦略を立てるところからシステムを導入するまで、プロジェクト全体をマネジメントする仕事です。導入先企業の業務内容に精通することはもちろん、システムの知見も求められます。プログラミング言語を学んで初歩的なソースコードも書けるようになりました。

その頃の僕のかばんはいつも本で膨れていて、「旅行にでも行くのか?」とよく周りに笑われていました。ですが、勉強は苦ではありませんでした。ITシステムは、導入すればお客さまがとても喜んでくれたからです。

十数年の間に200社以上をサポートしましたが、いずれの場合も僕の仕事はシステムを導入したら終わり。それを使ってビジネスを成長させていく、いわば「ビジネスの本番」に関われないことに、次第に物足りなさを感じるようになりました。

泥臭く動いていたマツモトキヨシ時代が懐かしく思い出されました。あの感じにまたどっぷりと漬かりたくなった。それで、30代の終わりにコンサルタントを辞めました。

──原点回帰して、事業会社に絞ることにしたわけですね。
はい。アマゾンジャパンには、在庫管理部門のリーダーとして採用されました。同社はロングテール戦略(人気商品に絞らず、ニッチな商品も扱う販売戦略)の先駆け企業。それゆえ、ビジネスの成長には在庫管理が鍵であると、僕はやる気満々でしたね。

ところが初日、入社オリエンテーション後に昼食をとっていたときのこと。上司がやって来て、「化粧品部門のリーダーに興味はありませんか?」と、すっと紙を差し出したんです。見れば、そのポストの組織図でした。断ることもできたのでしょうが、僕は「はい、喜んで」と答えました(笑)。だって、入社してわずか2時間で配置転換なんて、想定外すぎてワクワクするじゃないですか。結果的に、引き受けて良かった。あとで知ったのですが、化粧品部門はアマゾンのなかで一番の成長部門の一つだったのです。そのリーダーなど、普通に採用試験を受けても合格できなかったと思います。

僕のキャリアでは、こういう思いがけない幸運な出来事、いわゆるセレンディピティがよく起こります。選択を迫られたとき、これまでの経験やスキルが通用する安全な方ではなく、リスクがあってものめり込めそうな方を選んで挑戦するからです。

人生は選択の積み重ねです。リスクを避けてばかりでは想定内の未来にしかつながらない。それでは、つまらないじゃありませんか。僕はこれからも「没入感があるのはどっちだ?」と自分に問い掛けながら、ベイシアのデジタル変革を推進していくつもりです。

※ID-POSデータを利用したソフトブレーン・フィールド(現mitoriz)による調査(ダイヤモンド・チェーンストアオンライン「レシートは語る 第5回 大手食品小売のアプリ利用率比較  最高は『ベイシア』、メーン顧客の約8割が使用」より)
写真
【聞き手】
荒川直哉
株式会社マスメディアン
取締役 国家資格キャリアコンサルタント
荒川直哉
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT 企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
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キャリアアップナビ
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