四度めまして! さつまです!

小出楢重《横たわる裸身》1930年
小出楢重《横たわる裸身》1930年
ART FUN FANをご覧の皆さん、こんにちは! もしかしたら、こんばんは。美術ライターのさつま瑠璃です。

コラム連載も4回目となりました。私のことも覚えていただけたでしょうか?

今回は東京都・京橋にあるアーティゾン美術館を訪れました。よくあるコレクション展かと思いきや、担当学芸員さんいわく「いつもとかなり違う展示の仕方」をしていると言います。

そう、この展覧会のキーワードは「教育普及」。ということでまずは、そもそも美術館の教育普及とは?というところからご紹介しましょう。

美術館の教育普及とは?

Section 3の展示風景
Section 3の展示風景
美術館で働いている学芸員さんの中には、「教育普及担当」と呼ばれる人たちがいます。その名の通り、美術館を訪れる人たちがアートの知識を深められるように働きかけ、美術鑑賞をより楽しめるようにすることが主な仕事です。

具体的な例を1つ挙げると、館内での「ラーニングプログラム」の実施をはじめとしたイベント開催があります。専門家による講演会やアーティストトーク、ワークショップなどのイベント情報を目にしたことはないでしょうか?

多くの美術館で、このような企画は教育普及担当の学芸員や館内スタッフ、有志のボランティアなどによって運営されています。

また、地域の学校や企業などミュージアムの外に出かけて行うプログラムもあり、ワクワクと刺激が豊富なお仕事です。

アーティゾン美術館の教育普及のこだわり

アンリ・マティス《青い胴着の女》1935年
アンリ・マティス《青い胴着の女》1935年
アーティゾン美術館は、前身の「ブリヂストン美術館」だった頃から教育普及に力を入れていました。

開館以来ずっと続いている「土曜講座」、学芸員が展示室で作品を紹介する「ギャラリートーク」、家族向けの「ファミリープログラム」などさまざまな企画があります。他にも学校団体向け、教員向け、法人向けなど多くの人が楽しめる教育プログラムが盛り沢山です。

今回の展示は、こうしたプログラムの成果をもとに「所蔵作品の中から厳選した作品を、ひと味違った展示方法により楽しんでいただくもの」とのこと。鑑賞そのものを楽しむだけでなく、学びを得られる展覧会になっていることが特徴です。
森村泰昌《M式「海の幸」第1番:假象の創造》2021年<br />
下の動画は同作品を解説する「土曜講座」のアーカイブ
森村泰昌《M式「海の幸」第1番:假象の創造》2021年
下の動画は同作品を解説する「土曜講座」のアーカイブ

美術ライターがご紹介!「アートを楽しむ」の見どころ

Section 2の展示風景
Section 2の展示風景
展示は3章仕立て。上のお写真にもあるように、説明のキャプションやバナーが多めです。まるで学芸員が展示室を案内してくれているような充実した学びがあります。

作品にまつわる知識を深めたい人、美術をもっと知りたい人におすすめ! アートを鑑賞する目の解像度がアップします。

そしてアーティゾン美術館の素晴らしさは、何と言ってもコレクションの豊かさ。西洋絵画の巨匠たちの作品が勢揃いし、「これが全て館蔵品なの!?」と思うくらい見応えがあります。

各セクションの入り口には、展示の見どころをまとめたリーフレットが置いてあります。どれも無料で貰えるのでぜひ手に取ってみましょう!
読み応えのあるリーフレットが3種類も!
読み応えのあるリーフレットが3種類も!
Section 1 肖像画のひとコマ―絵や彫刻の人になってみよう
エドゥアール・マネ《自画像》1878-79年
エドゥアール・マネ《自画像》1878-79年
Section 1で取り上げているのは肖像画です。画家の自画像から特定の人物をモデルとした肖像画・肖像彫刻まで、多様な作品を楽しめます。

多くの自画像を残した 17 世紀オランダの画家レンブラント・ファン・レインをはじめ、肖像画の名手として知られる 19世紀フランスの画家エドゥアール・マネ、彫刻を手がけたパブロ・ピカソなど、作家も多種多様です。
アトリエを再現した空間では、小物を手に取って画家の気分を味わえる
アトリエを再現した空間では、小物を手に取って画家の気分を味わえる
パブロ・ピカソ《道化師》1905年 ほか
パブロ・ピカソ《道化師》1905年 ほか
Section 2 風景画への旅―描かれた景色に浸ってみよう
Section 2の展示風景
Section 2の展示風景
ここでは主に、19世紀フランスの風景画を取り上げています。パリ、ニューヨークなどの都市から緑豊かな自然景まで。鉄道網が発達し、チューブ式絵具が発明されたこの時代に画家たちは積極的に戸外制作を行い、身近な景色を多く描くようになったのです。

絵画表現の中で主要な主題の1つでもあった風景画は、多くの作家が関心を持ったジャンルでもありました。
Section 2の展示風景
Section 2の展示風景
当時の絵はがきを絵の中の風景と見比べてみよう
当時の絵はがきを絵の中の風景と見比べてみよう
都市の絵の1つである、岸田劉生《街道(銀座風景)》に描かれた場所は何とアーティゾン美術館のすぐ近く。また、展示室と繋がっているビューデッキからは岸田のアトリエがあった銀座中央通りを眺められます。開放感のある空間は鑑賞の休憩にもおすすめです。
アーティゾン美術館のビューデッキ
アーティゾン美術館のビューデッキ
クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》は、モネがヴェネツィア旅行へ行った際に描いた絵です。この絵の手前には海を描いた作品を配置しているところも空間構成のこだわりポイント。隣のモニターではヴェネツィアで制作した他の作品も見られます。
クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》1908年頃
クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》1908年頃
モネがヴェネツィアで描いた作品を楽しめるモニター
モネがヴェネツィアで描いた作品を楽しめるモニター
Section 3 印象派の世界を体感する―近代都市パリの日常風景
Section 3の展示風景
Section 3の展示風景
Section 3のテーマは印象派。中でも、ベルト・モリゾとギュスターヴ・カイユボットを取り上げ、丁寧な解説とともに絵画の背景を読み解いていきます。

「描かれているのは誰?」「この絵の場所はどこ?」「作品はどのような経緯で制作された?」など、絵を見ながら湧いてくる疑問を学びに繋げてみましょう。

展示室の中央にあるグランドピアノは、近年にアーティゾン美術館が所蔵した貴重な品物とのこと。絵のピアノと同じメーカーなのだそうです!
ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》1872年
ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》1872年
ピエール=オーギュスト・ルノワール《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》1876年
ピエール=オーギュスト・ルノワール《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》1876年

おわりに

「アートを楽しむ」とは、まず作品を見ること。そして自由に何かを感じること。その先に「学ぶ」ことの面白さがあります。皆さんも展示を見てお気に入りの作品を見つけながら、学ぶ楽しみを味わってみませんか?

開催は5月14日(日)まで。会場では声優の細谷佳正さんによるコレクションの音声ガイドが無料、学生は入場料も無料です。

会場では、同時開催中の「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 ダムタイプ|2022: remap」や「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 画家の手紙」も鑑賞できます。ぜひお楽しみください!
「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 ダムタイプ|2022: remap」展示室入口
「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 ダムタイプ|2022: remap」展示室入口
「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 画家の手紙」展示風景<br />
「アートを楽しむ」の展示室から4階の吹き抜け展示室が見える
「石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 画家の手紙」展示風景
「アートを楽しむ」の展示室から4階の吹き抜け展示室が見える
[イベント情報] 
アーティゾン美術館「アートを楽しむ ー見る、感じる、学ぶ」
https://www.artizon.museum/exhibition/detail/65
・会期:2023年2月25日(土)~5月14日(日)
・開館時間:10:00~18:00(5月5日を除く金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
・休館日:月曜日
・住所:〒104-0031 東京都中央区京橋1-7-2
・交通案内:JR東京駅(八重洲中央口)、東京メトロ銀座線・京橋駅(6番、7番出口)、東京メトロ・銀座線/東西線/都営浅草線・日本橋駅(B1出口)から徒歩5分
・入館料(税込):日時指定予約制 Web予約チケット 1200円(クレジット決済のみ)
当日チケット(窓口販売)1500 円/大学生・専門学校生・高校生 無料(要Web予約・入館時に学生証か生徒手帳をご提示ください。Web予約をされない場合は「当日チケット」(一般)をご購入ください)/障がい者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名 無料(要Web予約・入館時に障がい者手帳をご提示ください)/中学生以下の方 無料 予約不要
※掲載日時点での情報です。詳細は、美術館からの情報をご確認ください。
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さつま瑠璃
文筆家(ライター)。芸術文化を専門に取材執筆を行い、アートと社会について探究する書き手。SNSでも情報を発信する他、さつまがゆく Official Podcastでは取材執筆にまつわるトークを配信中。Web: https://satsumagayuku.com/ X:@rurimbon
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