マーケティングと広報に軸足を置いて、何でもパラレルにやってきた

──新卒でWeb業界に入って、20年以上そこで活躍されています。足を踏み入れるきっかけが何かあったのでしょうか。
1980年代から1990年代に盛り上がった「パソコン通信」をご存じですか? 専用ソフトを使って、パソコンとホストコンピュータを電話回線でつなぎ、今のチャットのように会話したり、掲示板で情報交換したりする、インターネットの前身のようなサービスです。中学生の時、このパソコン通信に夢中になりました。友達が運営する草の根BBSに接続して仲間とチャットしたり、大手のBBSに接続して自分の生活圏外で暮らす人たちと情報交換したりしたことで視野が広がるのを感じました。大人になったら、パソコンで遠くの人ともコミュニケーションを取りながら働きたいと、その頃から思っていたんです。それを実現するのに一番近道かなと考えて、Web業界を選びました。

大学卒業後に入社したのが、ビジネス向けWebメーラーを開発している会社です。その後、Webブラウザなどのソフトウエア開発を行うノルウェーOpera Software社に転職。そして現在はシックス・アパートという、主にWebサイト構築に活用されるCMS(コンテンツ管理システム)製品を開発する会社に勤めています。何度か転職をし、いろんなポジションを担当しましたが、広報を担当している時期が一番長いですね。

──Web業界一筋で、広報を極めてきたわけですね。
広報を担当しつつ、他のこともパラレルにたくさんやってきました。例えば、プロダクトマネージャーとして製品を企画し、エンジニアと一緒に開発したこともあります。私は自分の役割の境界線を、すごくフレキシブルに捉えています。1つのことをひたすら突き詰めるのではなく、そのときどきで求められていることに取り組みながら、今に至っているという感じです。

──マルチタスクで仕事をされてきたのですね。近年は副業もされていると伺いました。
Vivaldi(ヴィヴァルディ)というノルウェー製Webブラウザの、日本市場向けのマーケティングと広報を担当しています。Vivaldiは、前職のOpera社の元代表と元上司が立ち上げた会社です。本業のシックス・アパートがBtoB(企業向け)のCMSなのに対し、こちらはBtoC(個人向け)のブラウザ製品ですから直接は競合しません。そういった背景もあり、会社の承認を得て、副業として携わっています。

──もともと副業に興味があったのでしょうか?
いいえ、全然そんなことはなくて、積極的に副業を探していたわけではないです。昔お世話になった元上司に声をかけてもらったので、自分にできそうなことであればと手伝うことにしたのでした。

──自分の役割をフレキシブルに捉え、できることをやっていくうちに、それが会社の外にまで広がったということですね。
そう思っています。気付けば、副業を始めてもう8年になります。今は子どもが中学生となり手が離れてきて、まだ親の介護などのケアも必要ない。思いっきり仕事に時間を費やせる時期だからこそ、できることはあれこれ挑戦したいなと思っています。

──それだけ前向きに取り組めているということは、メリットを感じているのでしょうか。
本業と副業が直接は競合しないといっても、どちらもWeb関連で、領域としては近いです。そのため、自分が広報としてメディアの記者に情報を伝える時に、複数の視点から語ることができます。そこは、広報パーソンとして幅が広がっているなと感じます。

また、副業での学びを、本業の活動に活かせることもあります。副業は個人ユーザー向けのWebブラウザ製品なので、気軽にチャレンジできる取り組みも多いです。例えばSNS広告の配信や、新しいAIツールのお試し導入もしやすいのです。そこで得た知見を本業に活かせたこともありました。

そして何より、刺激になります。副業のVivaldiは、文化や国籍が異なる人たちと一緒に仕事をしています。本業とは違った新たな発見があるのは、副業をする最大のメリットだと思います。フレキシブルな働き方を認めてくれているシックス・アパートに感謝ですね。

シックス・アパート 広報 壽かおりさん<br />
ノルウェーOpera Software社のマーケティングコミュニケーション・BtoBマーケティング担当を経て、2010年にシックス・アパートに入社し広報を担当。約1500人のメディア運営者が集まるコミュニティ「オウンドメディア勉強会」を主催。副業としてライター・ブロガー活動、Vivaldi社のWebブラウザの広報も行っている。2016年夏より、毎日自宅やコワーキングスペース、旅行先などからリモートワークで働き、リモートワークノウハウを発信。著書に『リモートワーク大全』(ポプラ社)。
シックス・アパート 広報 壽かおりさん
ノルウェーOpera Software社のマーケティングコミュニケーション・BtoBマーケティング担当を経て、2010年にシックス・アパートに入社し広報を担当。約1500人のメディア運営者が集まるコミュニティ「オウンドメディア勉強会」を主催。副業としてライター・ブロガー活動、Vivaldi社のWebブラウザの広報も行っている。2016年夏より、毎日自宅やコワーキングスペース、旅行先などからリモートワークで働き、リモートワークノウハウを発信。著書に『リモートワーク大全』(ポプラ社)。

リモートワークは「働き方の選択肢のひとつ」である

──そもそもシックス・アパートにはどういった経緯で入社されたのですか?
2009年、前職に在籍していた時に子どもが生まれました。子どもが1歳になる頃に仕事を辞めて、今後の働き方を考えていた時に、先にシックス・アパートに転職していた前職の元上司から「手伝ってほしい仕事があるんだけど、どう? 働きやすい環境だし、一緒に働いてみない?」と誘われたんです。

当時、フリーランスとして別の仕事も始めていたので、まずはアルバイトという形で2010年7月から働き始めました。半年ほどアルバイトとして働き、携わっていた製品にもっとコミットしたい思いが生まれたことと、シックス・アパートの居心地の良さが後押しとなり、希望して正社員になりました。

──どんなところに居心地の良さを感じたのでしょうか。
ひとつは、社内のメンバーが最新のインターネットやガジェット事情に詳しく、話していてとても楽しかったことです。もうひとつは、必要に応じてリモートワークができる、柔軟な働き方です。当時から育児をしながら働く人が、男女問わずたくさんいました。実は前職でも、天候不良や子どものケアで出社が難しい時はリモートワークが認められていたので、働き方の変化を感じることなく転職できました。

──中学生の頃からリモートワークを視野に入れていたとおっしゃいましたね。
通信技術を活用して「好きな場所で働く」のが普通になる日がいつか来ると思っていました。シックス・アパートは2016年からフルリモートに移行しています。思い描いた理想の働き方ができるようになってうれしいです。

──なぜリモートワークを希望していたのですか?
もし自分の子どもが生まれたら、そばで様子を見ながら働きたいと思っていたんです。実際にやってみて、思っていたとおり、仕事をしながらも、学校から帰ってきた時の顔を毎日見ることができました。今はもう中学生と大きいので、そんなにべたべたしませんが…(笑)。

──リモートワークにはオンラインコミュニケーションが付き物です。長くリモートワークを経験されてきて、課題を感じることはありますか?
リモートワークで働くチームでは、ビジネスチャットなど業務ツールを使ったコミュニケーションが中心となります。言葉や画像で相手に伝わるよう丁寧に説明するのは多少手間ではありますが、関係者は誰でも、後から必要な情報を追えるという大きなメリットがあります。

一方で、リモートだと同僚が隣にいないから話しかけにくい、雑談が生まれにくいといったコミュニケーションの課題もよく話題になります。確かに、直接話した方が早いこともあるし、偶発的な会話から出てくるアイデアもとても大事です。それであれば、必要な時には集まる機会をつくればいいと思うんです。新入社員の場合は最初の1年間は週数回メンターとともにオフィスに出社するとか、全社員が集まる会を月に1回開催するとか、大事な会議の日は集合するとか。やり方はいろいろあります。

リモートワークとは、「毎日オフィスに全員が集まるのが前提の仕事の仕方」を「毎日全員が集まらなくても仕事が進む仕組み」に変えることだと思います。リモートワークが当たり前にできる社会に変わったのは素晴らしいことです。働き方の選択肢が増えたということですから。大切なのは、それが選択肢のひとつであると理解しておくこと。オフィスの方が気持ちよく働けるなら出社すればいいし、自宅の方が高いパフォーマンスを出せるならリモートワークをすればいい。足を痛めたならば、出社を控えて家で仕事をしてもいい。

自分の価値観や状況に合わせて働けるということは、社会全体の幸福度が上がることにつながると思うのです。新しいことを取り入れれば、新しい課題が生まれるのは当然です。それなら新しい解決策を見つければいい。働き方のフレキシブルさを利用すれば、解決策の選択肢も広がっていくと思います。

「武器になるスキル」を増やして、役に立てる場所を増やしたい

──私たちの働き方は、これからさらに変わっていくと思いますか。
はい。特に大きく影響するのはAIだと考えています。これからは、AIを使って自分の意見をまとめたり、記事を書いたり、企画を立てる時の相談役になってもらったり、そんなふうに活用していくシーンが増えるでしょう。AIが「超有能なアシスタント」をやってくれるわけです。

広報の仕事で言えば、ブログ記事に書きたいことを箇条書きにして、記事の構成を考えてとAIに依頼すれば、たたき台には十分なレベルのものができるのではないかと思います。省力化に大きく貢献するでしょう。

──壽さんの働き方も変わっていくでしょうか。
私はこれまで、広報とマーケティングに軸足を置いてやってきました。その上で、そのときどきに必要だと思った仕事、例えば製品企画などにも携わってきました。今後AIとの協働によって余力ができるなら、その分掛け合わせられるスキルをもっと増やして、仕事に活かしたいと思います。

今、取り組んでいるのは、データ分析です。マーケターとして、ビッグデータをSQL(データベース言語の1つ)でより精緻に解析したい。それから、仕事の幅を広げるために英語力も何段階か上げたいです。このように武器になるスキルをもっと増やして、さまざまな課題解決に役立つ人間になりたいと思っています。

──全体を通して、「フレキシブルでありたい」という強い思いを感じました。それはリモートワークで「どこからでも働ける」状態にしたいというだけでなく、会社やプロジェクトが抱える課題に対して、「肩書を超えて貢献できる自分でありたい」ということなんですね。スキルやキャリアをどう磨いていくか、ちょっと立ち止まって悩んでいる人たちにとって、1つの指針になる前向きな考え方だと思いました。本日はありがとうございました。

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