──未経験でデザイナーになられたと伺いました。
大学の専攻は、芸術を総合的に学ぶ学科でした。同じ科の卒業生の就職先はイベントや映像、音楽業界など多岐にわたりましたが、私は専攻とは異なるグラフィック制作を志望しました。ところが、ただでさえデザイン専攻の学生と競わなければならないのに、時代は就職氷河期…。就職活動は苦戦しました。

やっとの思いで東京の小さな広告制作会社に入社が決定。2003年に上京し、グラフィックデザイナーとしての修業が始まりました。新聞や雑誌の広告、ポスターの仕事が多く、広告会社の営業とがっちり組んではコンペに出て、同僚のアートディレクターと一緒に広告をつくる、という日々の繰り返しでした。広告業界に働き方改革の波が来るずっと前ですから、徹夜が当たり前の生活に。でも、おかげでデザイン経験をたくさん積むことができ、未経験で飛び込んだ私にはうってつけの環境だったと思います。
ソニーグループ クリエイティブセンター デザインプロデューサー 中尾由美さん<br />
2003年、大学卒業後、広告制作会社にグラフィックデザイナーとして入社。2008年、デザイン事務所にて音楽やファッション、広告のグラフィックデザイン制作に携わる。2012年、ソニー(現在のソニーグループ)にコミュニケーションデザイナーとして入社。2021年より、デザインプロデューサーとしてプロジェクトチームをまとめながら、コンセプトの立案、デザインディレクションなど多様な業務をこなす。
ソニーグループ クリエイティブセンター デザインプロデューサー 中尾由美さん
2003年、大学卒業後、広告制作会社にグラフィックデザイナーとして入社。2008年、デザイン事務所にて音楽やファッション、広告のグラフィックデザイン制作に携わる。2012年、ソニー(現在のソニーグループ)にコミュニケーションデザイナーとして入社。2021年より、デザインプロデューサーとしてプロジェクトチームをまとめながら、コンセプトの立案、デザインディレクションなど多様な業務をこなす。
──最初の転職を決意した理由を教えてください。
がむしゃらにデザインスキルを磨き、6年が経ったころでしょうか。クライアントと直接仕事がしてみたくなりました。広告会社を間に挟むと、その先にいるクライアントの本音が掴みづらい。その距離感がもどかしかったのです。

そこで、広告会社を介さず、クライアントから直接仕事を請けるスタイルのデザイン事務所に転職しました。新しい職場では、大手音楽レーベルのCDジャケットやグッズ、カルチャー誌のエディトリアルデザイン、 アパレルメーカーのカタログやポスターを手がけました。

クライアントと一緒にビジュアルをつくり上げるプロセスには、前職の仕事にはないスピード感と密度がありました。またこの会社では、広告以外の領域にも幅を広げることができた点も魅力です。例えばCDジャケットのデザインなどは、全国で発売されるものなので、主に東京にしか掲出されない広告の仕事と違い、地元に住む親に自分の仕事の成果を直接見てもらうことができました。これは、嬉しかったですね。

──なぜソニーグループに転職することにしたのでしょうか。
当時、仕事の依頼は企画単位で受けることが多く、企画の要望に沿ってその都度最適なスタッフとともにビジュアルをつくり上げることは、非常に刺激的で達成感がありました。ただ、どのようなビジョンのもと、この企画が立てられたのか、長期的な視点で考えると違うアプローチ方法もあったのではないのか、と考えることもありました。少しずつ長期的にブランドを育てるようなコミュニケーションデザインにも興味が湧いていました。

そこで、事業会社の中でのデザイン、いわゆるインハウスデザインの仕事に携わりたいと考え、転職活動を開始。好きなブランドだったソニーのWebサイトを覗いてみたら、まさに「コミュニケーションデザインができる人」の募集がありました。「ここしかない!」と思いましたね。

──インハウスデザイナーとして思い出深い仕事は?
2013年にVI導入プロジェクトに参加し、グループ企業内の多様な事業を包括するシンボルとしてグループロゴを手がけました。

そして2021年、ソニーからソニーグループへ社名変更する際には、「モーションロゴ」を改定しました。テレビCMなど、映像コンテンツに使用される動くロゴタイプです。ソニーのPurpose(存在意義)をわずか数秒でどう表現し、企業のブランド価値につなげていくのか。経営層や技術者、マーケターなど、さまざまな立場の人と議論を重ね、多角的な視点でデザインの方向性を決めていくのは貴重な経験でした。

この一連の業務は社外のデザイナーに委託することもできました。ですが、自社に合ったデザインをつくり上げるには、Purposeや会社の方針を理解・共感し、じっくりとブランドに向き合うことが絶対に必要ですし、まさにインハウスデザイナーだからこそ成し得た仕事だと、誇りに思っています。
これまで、ビジュアライズのエキスパートである広告制作会社のデザイナー、ソニーに入社してからは企業ブランドのデザインをリードするデザイナーを経験してきましたが、昨年また役割が変わりました。今は、ヘッドホンやスピーカーなど「サウンドカテゴリ」のコミュニケーションデザインチームで、デザインプロデューサーをしています。自らデザインをするとともにプロジェクトをリードする、プレイングマネージャーのようなポジションです。スキルもモチベーションも違うメンバーを導き、みんなが働きやすく、高いクオリティーを追求できる環境をつくることも私の仕事です。

新卒からずっとスキルアップを目指してきましたが、結婚や出産を経験して、私自身の価値観も変化してきました。今の仕事のテーマはワークライフバランス。プロデューサーとして、ひとつのお手本を見せられたらいいなと思いながら、日々奮闘しています。
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【聞き手】
荒川直哉
株式会社マスメディアン
取締役 国家資格キャリアコンサルタント
荒川直哉
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT 企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
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キャリアアップナビ
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