五度めまして! さつまです!

ART FUN FANをご覧の皆さん、こんにちは! もしかしたら、こんばんは。美術ライターのさつま瑠璃です。

コラム連載もいよいよ5回目。今回は東京都・新橋にあるクリエイションギャラリーG8を訪れました。開催されているJAGDA新人賞展はデザイン界隈で知らない人はいないであろうデザインアワードです。

会場では受賞された石塚俊さん、藤田佳子さん、矢後直規さんの作品がそれぞれの個性を主張しながら、独特な混ざり合いを見せていました。いずれも日本のデザインの未来を託された名手たち。アート記者の視点から、そのレビューをお届けします!

JAGDA新人賞展とは? 2023の見どころもチェック!

クリエイションギャラリーG8 展示風景
クリエイションギャラリーG8 展示風景
1978年に発足した公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(略称JAGDA)は、現在アジア最大級のデザイン団体として、デザインに関する展覧会の開催や教育・国際交流などさまざまな活動をしています。

そのJAGDAが選考する「JAGDA新人賞」は、今後の活躍が期待される39歳以下のデザイナーに贈られる賞です。これまでには国立新美術館で企画展が開かれた佐藤可士和さんのような、日本を代表する数多くのデザイナーが受賞しています。

2023年に受賞した3名はこれまでデザイナーとしてキャリアを重ねてこられた方々ばかりですが、今回初の受賞に至りました。「新人賞」とはいえ、仮に20歳からデザイナーとして活躍している39歳の人であれば、20年近いキャリアがあることでしょう。それでも多くのデザイナーがこの新人賞を目標の1つにしています。数年かけて受賞を目指す方も少なくありません。
クリエイションギャラリーG8 展示風景
クリエイションギャラリーG8 展示風景

JAGDA新人賞に輝いたデザイナーの作品をご紹介!

2023年は石塚俊さん、藤田佳子さん、矢後直規さんの3名がJAGDA新人賞に輝きました。その個性は見事にバラバラ! 会場ではその違いも楽しむことができます。

ここからはお写真も交えながら、それぞれの特徴を見ていきましょう。

矢後直規さん|得意な絵で個性を発揮
矢後直規《HOPE》2022年
矢後直規《HOPE》2022年
矢後さんは絵を描くことが特徴的なデザイナーの方です。中には娘さんの絵から着想を得てデザインに昇華させた作品も。会場ではお二人の共作とも言えるシュールで不思議な絵本《こねこがやってきました》も見られます。

「自分らしいデザインとは何か?」と模索していったとき、矢後さんにとってはそれが絵だったのです。

また、矢後さんの作品のそばには手書きのキャプションが添えられています。これは会場に作品が展示された後、自ら書き足したものなのだとか。

例えば、《小江戸まめ屋》は震災を機に家業を継ぐため退職した、会社同期のために行った仕事です。自身が何を思ってアウトプットしたのか、書かずにはいられなかったエピソード。読めばその物語に寄り添えます。
矢後直規《小江戸まめ屋》2022年
矢後直規《小江戸まめ屋》2022年
矢後直規さんの作品展示風景
矢後直規さんの作品展示風景
展示室の後半では、展覧会のキービジュアルに使われた《“A bird of useless elegance” 「美しさと無力さの鳥」》の原画も見られますので、お見逃しなく。

石塚俊さん|人が集う「場」づくりにこだわり
石塚俊さんの作品展示風景
石塚俊さんの作品展示風景
2019年より自身のスタジオ/プロジェクトスペース「ピープル」を運営する石塚さんは、「場」づくりやカルチャーに関心のあるデザイナーだと言えます。

人が集まる場——例えば、アートギャラリー、ライブハウス、ファッションビル——を表現するために手掛けてきた仕事の一部を見てみましょう。東京都現代美術館のポスターもあります。

石塚さんがデザインした、歌手・アーティストの星野源さんのライブグッズはあまりにも人気があり、デザイナー本人すら購入できないものもあるとか!
石塚俊さんの作品展示風景
石塚俊さんの作品展示風景
石塚俊さんの作品展示風景
石塚俊さんの作品展示風景
石塚俊《宴会》2021年
石塚俊《宴会》2021年
ポップなカラーと独特のユーモアは、まさに星野源さんのイメージにぴったりではないでしょうか?

藤田佳子さん|空間に存在する立体のデザインが得意
藤田佳子《香林居》2021年
藤田佳子《香林居》2021年
藤田佳子さんの代表的な仕事は《香林居》のデザインです。一時は取り壊しも検討された石川県のホテルをリノベーションし、装い新たに生まれ変わらせました。宿泊施設内の造形から部屋のアメニティまで、1つのコンセプトでつくられており統一感が感じられます。

独特なアーチのディテールはかつての建物にあったもので、それを活かす形でデザインをつくっていったそうです。

加賀友禅や金箔といったステレオタイプな石川のイメージから離れつつ、九谷焼を使ったサインなどその土地らしさを演出する工夫もなされています。
藤田佳子《香林居 ブランドブック》2022年
藤田佳子《香林居 ブランドブック》2022年
主にサントリーの広告を手掛けるサン・アドに所属されており、他にも工場の空間デザインや新聞広告などの仕事を担当されています。

空間全体を含めたデザインが得意なことを活かし、このJAGDA新人賞展では展示構成や空間デザインも担当されたそうです。
藤田佳子《サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場》2022年
藤田佳子《サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場》2022年
藤田佳子《サントリー「脱炭素」新聞広告》2021年<br />
藤田佳子《サントリー「水と生きる」新聞広告シリーズ》2019-2020年
藤田佳子《サントリー「脱炭素」新聞広告》2021年
藤田佳子《サントリー「水と生きる」新聞広告シリーズ》2019-2020年

まだある! 今回のJAGDA新人賞展はここがおもしろい

JAGDA新人賞展 会場内ショップ
JAGDA新人賞展 会場内ショップ
クリエイターにとって展覧会は、過去の仕事を振り返る機会でもあります。ここまで積み上げたキャリアを見せるタイミングとのことで、三者三様の強いこだわりが出ているのも今回展のおもしろいところです。

今回はグッズが多く、先行販売のブックや作家オリジナルの図録もあります!
クリエイションギャラリーG8のショップで先行販売される書籍『太田莉菜の不在』
クリエイションギャラリーG8のショップで先行販売される書籍『太田莉菜の不在』
また、今回は石塚さんが音楽家の小松千倫さんに、本展のためのBGM制作を依頼されました。『Textile』と題されたその楽曲には、「サントリー」「ピープル」など3人のデザイン作品を象徴する単語がちりばめられ、それぞれのバラバラの個性をつなげる意図があるそうです。

まさに、『Textile』というタイトルもテキストをつなぎ合わせて曲ができることを意味しているかのようですね。よく耳を傾けてみると、「これはテキスタイルです」というこの曲の象徴的なフレーズを聞き取れるかもしれません。

おわりに

JAGDA新人賞展は、新進のデザイナーにとって、“私はこういうデザイナーです”とお披露目する場として機能しています。

開催は5月27日(土)まで。東京開催の終了後は、大阪・愛知を巡回予定です。

なお、クリエイションギャラリーG8は2023年8月で営業を終了することが発表されています。今後は東京駅のグラントウキョウサウスタワー1階に場所を移し、アートセンター「BUG」として新たな歩みを始めます。

現在、BUGに併設されているカフェが先行して営業中です。ほっと一息つけるカフェラテや、ヴィーガンの方にもおすすめの「アボカドペーストとファラフェルのオープンサンド」などお洒落なメニューも。駅近くのアクセス良好な立地も魅力的です。BUGのオープンは2023年9月を予定していますので、こちらもぜひチェックしてみましょう。
矢後直規《“A bird of useless elegance” 「美しさと無力さの鳥」》2023年
矢後直規《“A bird of useless elegance” 「美しさと無力さの鳥」》2023年
[イベント情報] 
クリエイションギャラリーG8「JAGDA新人賞展2023 石塚俊・藤田佳子・矢後直規」
http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/2304/2304.html
・会期:2023年4月18日(火)~ 5月27日(土)
・開館時間:11:00~19:00(4月18日 (火)18:00、5月11日(木)は18:30まで)
・休館日:日曜、4月29日(土)~5月7日(日)
・住所:〒104-8001東京都中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
・交通案内:JR・東京メトロ新橋駅より 徒歩 3 分JR 新橋駅銀座口、東京メトロ銀座線新橋駅 5 番口を出て、外堀通りを有楽町方面へ向かい、高速道路の高架をくぐった先、土橋の交差点右側にあるガラス張りのリクルートGINZA8ビル1Fです。 
・入館料(税込):入場無料
※掲載日時点での情報です。詳細は、ギャラリーからの情報をご確認ください。
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さつま瑠璃
文筆家(ライター)。芸術文化を専門に取材執筆を行い、アートと社会について探究する書き手。SNSでも情報を発信する他、さつまがゆく Official Podcastでは取材執筆にまつわるトークを配信中。Web: https://satsumagayuku.com/ X:@rurimbon
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