マーケターの資質は、スーパーパワーを持つこと

──鈴木さんはマーケティング部のなかのブランディングチームを率いる立場。マーケターには、どんな資質が必要だと思っていますか?
「マーケティングスーパーパワー」を持っていることです。自分が圧倒的に情熱を注げること、誰にも負けないことが何なのかを言語化することはすごく大事だと思います。

──ちなみに、鈴木さんのスーパーパワーは?
私は「クリエイティブ」ですね。2019年にUber Japan(ウーバージャパン)に転職するまで、新卒からずっと広告会社の博報堂で働いていましたから。

あともう1つ挙げるなら「ファシリテーション」ですね。広告会社では営業やクリエイティブ・プロデューサーとして、いろんな組織やプロフェッショナルを、それぞれの事情や言い分に配慮しながらまとめ上げてきました。あのころの経験は、今、チームを束ねつつ、ほかの部門と関わっていくなかで、すごく活きているなと思います。
──チームには、どんなメンバーがいるのですか?
私を入れて5人のチームで、バックグラウンドはばらばらです。FMCG(日用消費財)業界でマーケティング戦略のプランナーをやっていた人、広告会社や事業会社でメディアプランニングの経験が豊富な人、それからグローバルのアパレルブランド出身の人。つまり、スーパーパワーを尋ねると、「戦略が立てられる」、「メディアに詳しい」、「流行やカルチャーが好き」と答える人がそろっています。

──鈴木さんが「クリエイティブ」「ファシリテーション」だから…すごくバランスがいいじゃないですか!
ええ、そうなんです(笑)。全員の力を合わせて、仕事を完成させることができるメンバー構成になっています。

マネージャーが全部1番じゃなくていいんです。それぞれに得意分野と苦手分野がある方が、チームワークが生まれやすい。年功序列に関係なくお互いを尊敬して、教え合い、補い合えますからね。私のチームも、すごくいい化学反応が起きていると感じています。
    
──ウーバーでは、日本法人でも基本のスキルとして「英語力」が求められますよね。
日本生まれではない社員は確かに多いです。でも、英語が苦手な人もいますよ。マーケティング部でも、大人になってから英語を習得した人が半分くらいです。

実は、私のチームでは、採用のときにはそれほど気にしていません。社内には教育プログラムもありますし、私が補完することもできます。それより、私やほかのメンバーにない強みを大切にしてほしいです。

──「私の強みはこれだ」って言い切るのは、実は結構難しいのではないでしょうか。得意だけど決して自分が1番じゃないな…と躊躇してしまいますし。
自分自身のマーケティングだと思えばいいんです。マーケターは、どんなに類似する商品やサービスがほかにあっても、自分が担当するものがいかに便利で素敵か、世の中に伝えるプロなんですから。対象が自分自身でも同じことです。自信をもって磨いて、魅力を発信してほしい。自分のマーケティングは自分にしかできませんよね

自分のかなえたい思いは、念仏のように唱え続けてきた

──鈴木さんも自分をマーケティングしながら、現在のポジションまで進んできたのでしょうか?
振り返ってみると、そう言えると思います。自分のやりたいことを口に出すのはその第一歩ですよね。

新卒で就活をしたとき、最初は報道を目指していました。私自身に世界を変える力はないから、世界を変える誰かのことを取材して、世界が変わるその瞬間を伝えたいと思っていて。それを言い続けていたら、「それなら広告業界に行った方がいいんじゃない?」と教えてくれる人がいたんです。それで、就活の途中で方向転換したんですが、周りは広告研究会とか、ゼミで勉強してきた人ばかり。すっかり出遅れた感がありました。

だから、博報堂のリクルーターの人には、なりふり構わず「広告のことを一から学ばせてください!」ってお願いしました。「面談ではなく勉強会の申し込みを受けたのは初めて」と驚かれましたが、手取り足取り付き合ってくれました。博報堂で内定がとれたのは、その人の伴走があったからです。

実は私、博報堂を10年弱勤めたあと、一度退職しているんです。ちょっと広告から離れてみようと思ったんですよね。とはいえ結局、2カ月後には、他社で働く友人からの声掛けでフリーランスとして広告の仕事をすることになったのですが。やっぱり広告が好きで、きちんと向き合いたくなったときに、それなら博報堂で働きたいと思いました。だから、博報堂の人に「戻りたい」って言ったんです、念仏のように何度も(笑)。そうしたら、ちょうど博報堂で、私の経験が活かせる大型案件の受注があって。タイミングも合致して、またご縁をいただくことができました。

営業経験しかなかった私がクリエイティブに異動できたのも、自分が貢献できる役割が何かを考え、「クリエイティブのなかにプロデューサー職があるといい」って、事あるごとに上司や上層部に提案し続けた成果だと思っています。

──すごい。鈴木さんのその熱意が周囲を動かしている感じがします。
ウーバーに転職を決めたときもそうです。博報堂で働いているとき、妊娠・出産の後、仕事への向き合い方に悩んだ時期がありました。ウーバー・ジャパンで働く知人とランチをしたときに、その話をしたら、当時ベストセラーになっていた『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』を勧められて。「仕事のことだけじゃなくて、子育てやこの先の人生について考えた方がいい」とアドバイスをもらったんです。

それを機に、自分の有限な時間をどう使いたいのかを整理し直して、「仕事では、自分が情熱を注げるBtoCブランドのマーケティングに集中したい」と思うようになりました。それで、折よくブランドマーケティングのポジションで募集をしていたウーバーに転職を決めました。これも自分が考えていることを人に話したからこそ、得られた転機とご縁ですよね。

入社したあとも周囲の人に助けてもらってきました。初めての事業会社でしたからわからないことばかり。だけど恥ずかしがっている場合ではありません。国内外のマーケティングのメンバーや、他部署の人たちにも「入社したばかりでわかりません、教えてください」と堂々とお願いしていました。広告会社でキャリアを積んできた自負はありましたが、実際は毎日学ばなければいけないことばかり。でもそこで自信を失うのではなく、その中で、自分の「スーパーパワー」を活かしながら成果を出してきました。

それができたのは、素の自分がウーバーというブランドが好きだったから。自分がいちユーザーとして利用したとき、生活が変わった実感があったんです。世の中を、暮らし方を変えられるこのブランドを広める仕事ってなんて素敵なんだろうと思っていました。そういう、自分のなかに「こうしたい」という思いがあって、それを実現するために情熱をもって助けを求めたら、手を貸してくれる人はいるんだと思います。

もしいなければ、その場所から離れた方がいい、という合図だと思っていいと思いますよ。

ウーバーでよく言われるのが、「キャリアパスの運転席に座り、ハンドルを握るのは自分」ということです。「上司や周りの人は、助手席に座っている。どこに行きたいのかを教えてくれれば、一緒に地図を描いて、目的地に着くまでサポートするから」って。逆を言えば、自分が目的地をはっきり言わない限り、誰もサポートできないということです。目的地にたどり着きたいのなら、「ここへ行きたい」と口に出してちゃんと伝える。そうすれば、迷いなくドライブできるように、手助けしてくれる人が必ずいます。

──もちろん、口にするだけで希望がかなうわけではなく、鈴木さんが発する言葉には魂が宿っているから、聞いた人の心に響き、一緒にやろう、サポートしたいという気持ちになるのだと思います。鈴木さんが次にどんなことを実現するのか、注目したいと思います。本日はありがとうございました。
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【聞き手】
荒川直哉
株式会社マスメディアン
取締役 国家資格キャリアコンサルタント
荒川直哉
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT 企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
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キャリアアップナビ
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