上を目指すために、一番下に居続ける

──創業4期目にして従業員数が140人を超えて、会社も夏に移転予定だとか。ゴールデンウィークに行われたニコニコ超会議での「IRIAM超バーチャル握手会」も大盛況だったようで、会社としてはかなり好調に成長していると思いますが、塚本さんは現状をどのように感じていますか?
非常に優秀な人材に集まってもらって、ありがたい限りです。でも、会社としては創業したばかりでまだまだこれからだと思っていますし、この会社のさらなる成長のためには僕自信の能力が足りていないと感じています。

──塚本さん自身の能力ですか。具体的にどうような点なのでしょうか?
起業家から経営者に変わらなければいけないと思っています。僕はまだまだ起業家としての気質が強くて、まだ経営者にはなれていないんです。会社を興して起業家になってから気付いたのですが、経営者は不幸なんです。
──“不幸”とは、具体的にどういうことでしょう?
僕も起業する前は、10億円の売り上げをつくることや30人の社員を雇うことができればすごいと思っていました。でも実際にそのフェーズを経てみると、それを「すごい」と言ってくれる人と「別にすごくない」と言う人の、2種類に分かれたのです。僕のことを「すごい」と褒めてくれたのは親しい人たちで、「別にすごくない」と言う人たちは、僕よりも売上規模も社員規模も大きな会社の経営者の方たちです。そういう人たちにとっては、当然僕のやっていることはすごくないですよね。でも、 自分がヒエラルキーの一番下にいるコミュニティに身を置き続けることが、自分の成長につながる唯一の場所だと思っています。たしかに「君はすごいね!」と褒めてくれる場所の方が居心地は良いですし、ちやほやもしてくれて幸せだと感じますけど、そういう場所って自分よりヒエラルキーが高いモノって少なくて、成長につながる因子がないんです。

だからこそ、経営者であり続けるのなら、ヒエラルキーの一番上に立ったコミュニティに居続けるのではなく、ヒエラルキーの一番下に身を置き、よりランクの高いコミュニティを昇っていくことを繰り返していかなければならないんです。経営者である以上、停滞は沈没と同義です。だからこそ経営者は不幸なんです。誰だって居心地の良いところにずっと居たいのに、そこに居てはいけないので。そして僕自身はまだ創業して日も浅く、経営者というよりも起業家の毛色の方がまだまだ濃い。だから、もっと多くの経験値を積んでいかなければならないと思っています。

個人の魅力を磨くには

──経営者として走り続ける以上は満たされてはいけないんですね。そもそも塚本さんが起業をすることに決めたきっかけなんだったのでしょうか?
きっかけというよりは、起業すること以外の選択肢がなかったという感じに近いです。僕は子どもの頃から将来の夢というものをはっきり持ったことがないんです。冷めているというか、地に足をついた考え方をずっとしていて、漠然と自分は将来、商人になると思っていました。価値のあるものを考えたり、つくったりするなどしていけば、お金になって自分に戻ってくる。自分の手元に戻ってくるお金の大きさ=自分が生み出せる価値の量、この仮説をずっと抱きながら過ごしていて、大学生のときに共同創業者で現ZIZAI COOの渡辺と出会って、2015年に起業しました。

──大学は名古屋大学の工学部のご出身なんですよね?
そうです。プログラミングを専攻していたのですが、全然得意ではなくて、むしろ落ちこぼれでした。入学してから1日目の授業で挫折して、大学にもほとんど行かず、サッカーばかりしていた学生時代でした。プログラミングに関しては日本で一番わかっていない自信があるくらい、苦手です。そもそもPCなどの機械を触ること自体が苦手で、大学生の頃も、いまも自分のPCを持っていないんです(笑)。

──めちゃくちゃ意外ですね(笑)。バーチャルYouTuberの「ミライアカリ」のプロデュースやパチンコ・スロット業界の最大手のYouTubeチャンネルの「スロパチステーション」などを手がけていらっしゃるので、塚本さん自身もデジタル領域を得意としているのだと思っていました。
父親がエンジニアリングに詳しくて、将来商売をするならエンジニアリングがわかっていた方がいいと言われて、名古屋大の工学部に進んだのですが、完全に騙されましたね(笑)。それに大学時代もサッカーばかりしていて、サブカルチャーやデジタル領域に触れることも特別多いわけではありませんでした。
──ということは直接VRやアミューズメントに対しての原体験があって、現在の事業に反映されているわけではないのですね。
そういうことになりますね。僕の中にある人生のモチベーションって、好奇心や探究心を満たすことなんです。そのためにも、エンタメやアートなど世の中にありとあらゆる価値観には積極的に触れています。新しい価値観に触れていくときに、僕の中でイメージしていることがあって。それは、新しい価値観に触れる度に、自分の中に流れる血液が増していくんです。この血液が増えるほど、自分の中の価値観が増えていく感覚があるんです。

──“血液が流れるイメージ”ですか。それが増していくと、どうなっていくのですか?
有益なコミュニケーションを取れる人が増えていくんです。僕がコミュニケーションを取る上で大切にしているのは、“相手も自分もお互いに満足ができること”なんです。なぜこれを大事にしているのかというと、コミュニケーションは自分ひとりで自己完結するものではなくて、相手がいて成り立つもの。だからこそ自分だけではなく相手にも満足してもらうべきなんです。そうでなければ時間の無駄ですし、本当に有益な情報もお互いに得られない。だから、僕にとって一番悔しいことは、相手の中にある価値観を自分が理解していなかったときなんです。そうならないためにも、相手と同じ価値観を共有することが有効で、そのためにも自分の中の血液を増やしていますし、僕に接してくれるすべての人に満足してもらえるようなコミュニケーションを取れるように心がけています。

個人の時代から、チームの時代へ

──自分だけでなく、相手も満足できるコミュニケーションということですね。それもまた“成長の因子”の1つになりそうですね。
よくコミュニケーションは、相手の立場を考えて振る舞うことが良いと言いますが、まさしくその通りなんですよね。それができると、良い人になれるんです。この良い人でいるということは、個人の力が強い現代では直接、力に結びつきます。たとえば、お店でレシートを貰うときに一言お礼を言ってみたり、言葉のイントネーションに少し気を配ってみたり。そういう日頃の小さな積み重ねが自分を応援してくれるファンをつくりますし、現代ではそれは無視できないほど強力な力になります。そのため、個人の力が強い時代だからこそ、良い人であることは大切なことだと思いますね。

──たしかに、現代は個人が強い時代ですよね。塚本さんはこの先の時代でなっていくと考えていますか?
より個人が強くなるのは明らかだと思います。ZIZAIが手がけているライブ配信アプリ『IRIAM』もそうですが、一般人がインフルエンサーになって芸能人以上に影響力を持ちます。またテクノロジーが発達したことで昔はなかった新しいプロダクトやサービスが生まれ、生き方も多様になっていますよね。そうすると、個人の選べる選択肢が増えて、行動の幅が広くなっている。つまり、なにかをやりたいと思ったときに、それをかなえるのが簡単になっているんです。
さらに、このように個人の力が高まり続けると、その次は大きなチームに所属し一人では実現できない規模の大型プロジェクトへ参加することの価値が上がるフェーズが来ると思っています。個人でできることが増えるほど、集団を維持することは難しい。だからこそ価値が出る。いまはフリーランスが流行っていて、個人で仕事も完結できますが、やっぱり一人って寂しい。だからこそコミュニティの価値が高まる。長い歴史の間で、人がなにかを成し遂げたときに、一人で成し遂げた例がほとんどないように、最終的には大きいことをチームでやりたくなる。自分一人で出す結果よりも二人で出す結果がその倍以上なら、二人で挑戦してみたくなるんです。そのため、個人以上にチームやコミュニティの価値が高まると思っていますし、それらの中心にいる人やモノがこの先の時代を引っ張っていく存在になると思います。僕個人やZIZAIという会社が将来的に、大きなチームの中心を担える未来を実現するためにも、いまは個としての力をより一層高めていきたいと思います。

──チームの時代が来るからこそ、個の成長が欠かせないですね。これからZIZAIが生み出す未来も楽しみです。本日はお話いただきありがとうございました!
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