超速サイクルでコンテンツを生みだすCHOCOLATE Inc.

市原:お久しぶりですね! 氏くんとは大学の先生の謝恩会ぶりにお話しますが、いろいろと動向は拝見しています。ちょうど先日、所属しているコンテンツスタジオ「CHOCOLATE Inc.」に豪華なクリエイター陣が続々と参戦するというニュースが大きな話題になっていましたね。YouTuberのあさぎーにょさん、人気ライターのさえりさん、あと先日advanced by massmedianでも取り上げられたマーケターの陳暁夏代さんなどなど。それぞれご自分の強い軸とファンを持っている若いトップランナーが集結していて、私もびっくりしました。氏くん含めて、皆さんどういった形でCHOCOLATEに関わっているのでしょうか? 先日、THE GUILDの奥田透也さんにお話を伺ったのですが、ああいった独立した職人が集まるギルド型組織のイメージ?
異なる分野に出自を持つコンテンツプランナーがCHOCOLATEに結集
異なる分野に出自を持つコンテンツプランナーがCHOCOLATEに結集
氏田:「ギルド型組織」と言う単語だけ聞くとフリーランスの集まりかと誤解を生んでしまいそうですが、所属するメンバーの能力や役割に応じて会社との契約形態は人それぞれです。と言っても基本的には正社員が一番多いですが全員がそうではなく、プランナーでも正社員としてCHOCOLATEに所属しているパターンもあれば、業務委託のような形で自分の会社やプロジェクトと兼任で所属している人などそれぞれです。ただ業務量の大小ではなく同じ夢に向かってクルーとしてやっているような感じですね。僕の場合は自分の会社「考え中」とCHOCOLATEの仕事が半々ぐらいです。お互いで得た知見や発想が双方にいい影響にもなってます。

市原:なるほど! そういえば氏くんがCHOCOLATEで制作したコンテンツ「魔法陣充電器」がSNSで盛大にバズっていましたね。
氏田:CHOCOLATEは基本的にオリジナルコンテンツをつくる組織で、その中で「6秒商店」は、動画ドリブンに商品開発をしていくメディア兼商店です。それに加え、いまCHOCOLATEではゲームもつくっていて、毎週新しいゲームのブレスト会議をしています。その場で紙にバーッとアイデアを書いて、すぐに試作品をつくって、テストプレイの様子を動画撮影して、それをすぐにYouTubeチャンネルで放送しています。毎回4つ以上のゲームを考えて、その場で撮影するといった怒涛のサイクルで(笑)。面白くて盛り上がったら、β版として小ロットで商品化しています。

市原:めちゃくちゃスパルタだ……! 各分野の人気クリエイターが次々と参戦の発表をしていましたが、皆さん自分の専門分野で、こういったプロジェクトを各方面で実施していくのでしょうか? 例えばさえりさんなら恋愛モノでとか。
氏田:そうそう、人によって得意分野は違いますね。さえりさんは恋愛以外の企画もできるので、オリジナルドラマの脚本をしたり。それが同時多発的に行われている感じ。僕は、これまで「何回リツイートされるか」みたいな世界で生きていたのですが、やっぱりつくったものに対してお金を払ってわざわざ買ってくれると嬉しいから、商品化に注力しています。バズやインターネットの参加性という持ち味は残したまま商品をつくっていきたいんです。

「企画作家」としての仕事を主軸に。独立系プランナーの生存戦略

市原:氏くんは面白法人カヤックでプランナーとして活躍していた後に独立して、「株式会社 考え中」を起業しましたよね。プランナー職での独立は、エンジニアやデザイナーなど職能がわかりやすい技術職と比べると珍しい印象もありますが、実際に独立してみて、どうですか?

氏田:独立してわかったのですが、フリーのプランナーは意外と需要があります。「社内にマーケティングやデータ解析をする人はいるけど、肝心の面白い企画を考える人がいないんです」といったご相談をいただくことがすごく多いんですよね。どの企業にも所属せず、その都度チームに入って企画をする働き方はニーズがあることがわかりました。

市原:氏くんは「プランナー」だけでなく「企画作家」としても活動をしているじゃないですか? これも意図があるのでしょうか。

氏田:そうですね、「企画作家」と名乗っているのには理由があります。自分のいる業界では「プランナー」は広告プランナーを差すことが多く、クライアントの要望に的確に答えを出していくイメージがあります。でも、そのフィールドの中だけでは自分は勝てないと思いました。一方で、本を書いているからといって「作家」と名乗るような働き方もしていない。そこで、「企画作家」を名乗ることで、僕のクセや持ち味を理解したうえで、一緒に企画をしたりコンテンツを制作できるような仕事の依頼が来るのではないかと考えました。

ただ、独立して1年目ですが、クライアントワークよりもオリジナルコンテンツに力を入れたいなと思っています。自分の持ち味である「SNSで流行るトンチ」の力を、広告ではなくて他の分野、例えばエンタメや本などの作品で活かせないかと思っているんです。
市原:氏くんは、昔から面白い取り組みをしていましたよね。「アフィリエイト広告だけで『桃太郎』を書いてみた」とか大学卒業してすぐだっけ? こうしたコンテンツがたびたびSNSでバズって、独立直前は特にすごかったですよね。それで会社勤めしている中『あたりまえポエム  君の前で息を止めると呼吸ができなくなってしまうよ』でデビューして、企業とのタイアップも怒涛の勢いで決まっていって。

氏田:ちょうどあのころ部署異動して、暇ができたから、個人的にたくさん実験をしていました。そのひとつが『あたりまえポエム』で、ありがたいことに話題になり、その後僕個人への仕事の相談が増え、もともと自分の名前で活動がしたいという考えもあったので独立しました。

ただ、本が売れ始めたのは、会社を辞めて有給期間も終わり、収入がなくなったタイミングでした。もちろん仕事はしていましたが、フリーだと仕事をやっても実際にギャラが入金されるのは数カ月後じゃないですか。ちょうどその谷間の時期に『54字の物語』の書籍が売れはじめて、なんとか持ちこたえました。一年以上前に蒔いた種に、やっと芽が出はじめたというか。発売後にSNSで一般ユーザーからの公募キャンペーンをやったところ、その応募作品が予想以上に面白くてSNSで拡散されて。発売から6カ月経ったころに売れ行きが伸びていきました。

遊びのルールを設計することで、表現する人を増やしたい

市原:「考え中」のサイトに書かれている、氏くんの得意分野である「ルールの設計」はどのように身につけたの? 「言葉の企画」「バズの企画」はこれまでの出自でなんとなく理解できるけど……。「ルールの設計」は、私も含め文系出身のクリエイターは専門性の確立で悩んでいる人も多く、参考になりそうなので、ぜひ伺いたいです。
氏田:「ルールの企画」については結果論というか、自分がこれまでやってきたことを俯瞰してみたら気付いたという感じですね。一定のルールの中で面白いことができるかを考えることがもともと好きで、フレームや枠組みを企画して、そこから作品をつくるやり方ができないかと考えています。例えば「54字でなにか書いてください」という枠組みを僕が用意して、僕ではなく他の方が書いたものが流行って、それで本が売れる……というような仕組み。こういう本やコンテンツのつくり方があってもいいんじゃないかと思って、始めました。

市原:個人的には、この活動はとてもメディアアート的だなと。氏くんが生み出すコンテンツももちろん面白いけど、あえて企画に専念して他の人が生み出すコンテンツを育てていくところというか、どこかプラットフォーム的で匿名性があるのが面白いです。大学時代、同じゼミでメディアアート系を勉強していた影響もあるのかなと感じます。

氏田:意識していなかったけど、そうかもしれないですね。ちなみに今は「ゴーストライターのコミュニティ」をつくろうとしています。Slackに『54字の物語』などの執筆グループをつくって、そこにはすごく企画や文章のセンスのある方たちがたくさん加入しています。それで原稿料をお支払いして、それぞれの『54字の物語』を投稿してもらっています。「ゴーストライター」と名前はついていますが、「私が書きました」と言っていいし、書籍の奥付に執筆者として名前を載せることもしています。これもルールの企画で、堂々と分業できる本のつくり方があってもいいのかなと思って取り入れました。執筆グループ内には、例えば普段は公認会計士をやりながら趣味でSF小説を書かれている方などもいて。そういう才能のある方たちが世の中にはたくさんいることに気付いて、僕は企画部分をつくったほうがいいとより思うようになりました。遊びのルールをつくったほうが、たくさんの人が書き手になれるし、もっとたくさんの作品が生まれる。つくり手になりたい人のための場をたくさんつくりたいと思っています。

高校時代も授業中に隣の席の人が先生にあてられたら「こう言ったら面白いよ」とネタをコソッと耳打ちして、その人がそれを言ってウケる瞬間が一番気持ちいいという学生でした。あまり自分自身が目立ちたいわけではないけど、人を笑わせたい願望があるのかもしれません。
市原:自分が企画したことでだれかが脚光を浴びたり、フィーチャーされるのがうれしいのか……。変わっているけど、自己表現をしたい人が多くいるこの時代、非常に求められている人だなと。企画作家はプロデューサーでもあるのか……。

氏田:本当はちゃんと名前も出していきたいんですけどね……。ネットで勝手に広がっていくのは個人的には嬉しいのですが、ビジネスになりにくいので。『あたりまえポエム』は僕発信の企画だと思われていないことも多くて。だから、その反省をふまえて『54字の物語』では「54字の文学賞」という賞を催しました。賞をつくることで本家本元がはっきりするので。失敗を繰り返して、少しずつネットのムーブメントを味方につける方法を学んでいます。

自分の得意なフィールドに引っ張り込む

市原:氏くんは仕事の生み出し方が独特だよね。『あたりまえポエム』とか自分で企画したオリジナルプロジェクトにうまく企業キャンペーンを絡めていて。こういったお仕事はどうやってスタートするの?

氏田:一番多いのは広告会社からのコラボのご提案ですね。「『あたりまえポエム』の企画をクライアントが気に入ってくれて……」というような形でご相談をいただきます。自分の企画がベースだと僕の得意なフレームで考えればいいのでありがたいです。もちろん「もっとこうした方が良くなる」というカスタマイズの提案は毎回させていただくのですが、そういった需要に気付いたので、今年はタイアップの種をいっぱい増やしていきたいですね。

市原:自分のフィールドありきでやる仕事はとても良いですね。その都度相手にあわせていると消耗してしまうから。最初から企業コラボなどの展開を視野に入れつつ企画をつくっているの?

氏田:いやらしい話ですけど、ちょっと考えています。日々実験なので読みが絶対に当たるとは思ってないですけど、打つ玉の数をとにかく増やして、日々感覚をアップデートしています。

市原:企画時点でタイアップのイメージをされていたとは……やり手ですね。アーティストだとあまり思いつかないアプローチで、ビジネスの設計ができるのはさすが元広告プランナーだと感じます。「この会社とタイアップできそう」みたいな勘は前職の面白法人カヤックで磨いたのでしょうか?

氏田:その経験は活きていますね。「面白法人」を標榜し、バズが得意な会社だったので、クライアントワークでも個人のプロジェクトでもどうしたら人が乗っかりたくなるかというルールについては本当にいろいろ工夫しています。例えば、誰が投稿しても75点は取れるようにハードルを下げるのも一つです。文字数の際限がないとクオリティがピンからキリまででてきます。けど「54文字じゃないとダメ」というルールがあれば、54文字ぴったり書けばその時点で成功しているから、クオリティを気にせずついついシェアしたくなる。あとは画像にしてパッと見で読めるようにするのも一工夫です。これまで「言葉」で戦ってきた経験から、「文字だけだと読まれない」「ビジュアルしか見られない」という真理に辿り着きました。

「こうしたら面白いかな」と考えて1分でつくった画像をTwitterでアップしては反応を見る試行錯誤を繰り返していたので、とにかく実験量は多い方だと思います。ありがたいことに、最近は注目してもらえるプロジェクトも増えましたが、いま思えば潜伏期間や下積み期間も長かったかもしれないです。
市原:一般的な日本の大企業だと、数を打つより事業を絞って完成してから発表するやり方が多いので、どんどん実験を公開していく姿勢もカヤックの流儀を継承している気がする。

氏田:「考え中」という社名には、実はその意味もあって、途中経過をどんどん出していこうと思ったんです。「考え中ですけどどうですか?」とアイデアを発信していくと、面白いと思った人は乗っかってくれるし、協力したい人は協力してくれるし、そこからファンになってくれる人もいる。だから過程のアイデアをどんどん出していこうと思って、今年は「考え中」の企画をnoteやYouTubeに公開していこうと思っています。

スマブラのようなワクワク感を

市原:最後に、氏くんが今後やっていきたいことは何でしょうか?

氏田:やりたいことは本当にいっぱいあって。これまでつくった企画や、これから生み出す企画を多方面に展開して育てていきたいです。キャラクタービジネスの考え方と近いかも。サンリオにとってのキティちゃんのような存在に育てていきたいんです。『54字の物語』のフォーマットで歴史が学べる本をつくったり、学校の国語の教材にしたりとか。ほかにも海外展開や映像化など、ひとつ種をつくったらちゃんと育てることに注力したいです。あとは、今までやってこなかった作家性のあるものにも挑戦したいですね。

市原:作家性のあるものとは、具体的にどのようなもの?

氏田:最近話題になっていたのですが、つい先日公開になった劇場版「シティーハンター」で、主人公の冴羽涼の銃の撃ち方が原作と変わっていたんです。なぜ変えたかというと、原作が描かれた1980年代には流行っていたけど今は廃れた銃の撃ち方をしていて。昔の撃ち方だと銃身にダメージがあるそうで、「銃を大切にする冴羽涼ならやらないだろう」と変更したみたいです。つまり、銃の撃ち方という設定ではなく、冴羽涼の人格が生き続けて時代にあわせてアップデートされているんですよ。これが作家性なのかな、と思いました。僕がつくったものが10年後20年後、ひいては100年後にも残るかというと、現代のSNSであるTwitterに最適化された作品なので、残っていかないだろうと感じます。だから、最近はこういう作家的な分野にも挑戦していきたいです。

市原:100年後も愛されるようなキャラクターをつくりたいのか……。

氏田:そうです。CHOCOLATEでも、任天堂やピクサーのように、「次どんなものを生み出すんだろう」と心待ちにしてしまうものをつくることを目指しています。これは僕が勝手に言っているのですが、CHOCOLATEは「社歌」ならぬ「社ゲーム」がスマブラ(任天堂・大乱闘スマッシュブラザーズ)なんです! スマブラに登場するキャラクターたちには、それぞれ長い歴史とみんなの思い入れがあって、それを踏まえたファンの楽しませ方や、ワクワク感がすごいですよね。CHOCOLATEも各メンバーそれぞれがマリオで、ピカチュウで、リンクで……みたいな感じを目指したいと思っています。スマブラは情報解禁が上手でカッコいいので、自社のプレスリリースもどことなくスマブラっぽくなっちゃいました(笑)。個人としても、CHOCOLATEとしても、スマブラのようなワクワク感を醸成するのが目標です。
CHOCORATEのプレスリリースより。右下のシークレットメンバーがスマブラ感を醸し出している。
CHOCORATEのプレスリリースより。右下のシークレットメンバーがスマブラ感を醸し出している。
市原:スケールの大きな話でクラクラしますが、本当に実現していけそうな説得力がありますね。とても今の時代の空気感をとらえていて、氏くんとCHOCOLATEの今後の動向が楽しみです。
写真
【ナビゲーター】
市原えつこ
メディアアーティスト、妄想インベンター。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。2016年にYahoo! JAPANを退社し独立、現在フリーランス。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。 主な作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス《セクハラ・インターフェース》、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる《デジタルシャーマン・プロジェクト》等がある。 第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞、総務省異能vation(独創的な人特別枠)採択。2018年に世界的なメディアアート賞であるアルスエレクトロニカInteractive Art+部門でHonorary Mention(栄誉賞)を受賞。
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