「強み」の掛け合わせで、自分なりのNo.1をつくる。フォーリンデブはっしーが考える、好きを仕事にする思考法 フォーリンデブはっしーさん
「フォーリンデブはっしー、電通から独立。『食のエンタメ化』をライフワークに」
日本一になるには
──はっしーさんは「食」という好きな領域を活かし、個人でインフルエンサーとして、電通ではプランナーやプロデューサーとして、それぞれで飛躍的な活躍をされてきましたよね。二足のわらじを履くうえで心がけてきたことはありますか?よく二足のわらじと言われるのですが、個人的には2つではなく「1.5足のわらじ」だと思っていました。つまり、それぞれで重なる領域があるということですね。もちろん「食」の活動を始めたころは2つが分断していましたが、徐々に強みを磨くことで、2つの融合が図れました。まずは、自分がこれだ! と思うスキルをとことん磨いて、実績をつくることが大事だと思います。私は大好きな「食」を追究しつつ、電通の仕事を通じて「表現力」や「企画力」を磨き、ブログやInstagramなどのWebで発信することで可視化させました。
読者を増やすとともに、少しずつテレビや雑誌などメディアへの露出も増えてきたことで、自分に「旗」が立つようになりましたね。この旗というのは、その人のキャラクターのようなもので、「あの人と言えば○○だよね」などの個人と直結したイメージのことです。実績を積んで掲げることができた旗は、活動していく上で信頼性を持たせてくれますし、その旗を目印にして、相手からコミュニケーションを取ってくれるようになるので、求心力も生まれます。
日本社会は良くも悪くも、実績を重視する傾向にあるんですよね。私の場合でいえば、最初は「食」の活動もプライベートの遊びのように捉えられていて社内で気まずい時期もありました。しかし、「○○のメディアで紹介された」などの実績ができると、まわりの見る目がガラリと変わりました。メディア出演だけでなく、資格の取得など、いわゆる公的なものも当てはまります。
SNS時代において、このようなセルフブランディングはますます重要になってきています。自分の好きなことを追究したいのであれば、まずは「対外的な評価としての実績」をつくることをファーストステップに定めると良いと思います。
会社の中にいると「井の中の蛙」になりがちですが、あくまで会社は社会の一部なので、会社よりも大きい社会の評価があれば、それは会社の中でも使い方次第では大きな武器になります。会社と社会は、その漢字が真逆のように、じつは表裏一体なんですね。
── 社会で通用する自分なりの武器をつくるということですね。とはいっても、はっしーさんのように突き抜けるのは、人によっては難しいのではないでしょうか?
まず前提として、自分が好きなことを本当に追求したいのなら、日本一を目指すべきだと思っています。働きながら大切な時間を使って取り組むからには、中途半端はいけません。ただ、全力で努力しても日本一になるのは、たやすいことではありませんよね。ここで考えるべきは、自分が持つ「強み」の掛け合わせによって、日本一の存在を目指すということです。
私自身、もちろん「食のスペシャリスト」を目指していますが、いわゆる「食べ歩き」という領域だけで考えると、私よりも食べ歩いている人はいます。「安くて、美味しくて、予約が取れて、しっかり太れる」の4条件を大切しながら食べ歩いているので、予約困難なミシュラン星付き店を全制覇している人には、高級店では敵いません。また、私は年間1000軒を食べ歩きましたが、年間1200軒という人に出会ったこともあります。つまり、「食べ歩き」という領域では「日本一」ではないんですね。ブログのアクセス数やInstagramのフォロワー数といった、数字で見えている部分はありますが、これは「支持」や「注目」の数値であって、厳密にいうと「食べ歩き」の度合いではありません。
ですが、言い方を変えると、ブログやInstagramにおいては、おかげさまでありがたいことに外食部門で最大級の読者の方々に見ていただいています。べつにそれを偉ぶりたいわけではなく、なにが言いたいのかというと、「食べ歩き」×「表現力」の掛け算によって、そのポジションをつくることができたわけです。
たとえ、ひとつのスキルが日本一ではなくても、それが1万人の中では1位になれる「1万分の1」のスキルであれば、もうひとつのスキルも同じように「1万分の1」まで磨けば、掛け合わせると「1万分の1」×「1万分の1」=「1億分の1」になり、日本の総人口である約1億人の中で1位、つまり日本一になれるという計算が立ちます。
私が電通で、表現や編集といったクリエイティブを学んで研鑽できたおかげで、表現力のスキルが「1万分の1」になった。さらに、プライベートで培った食べ歩きのスキルも「1万分の1」になった。この2つを掛け合わせてみたところ、化学反応が起きて、ブログやInstagramのグルメ投稿が生まれました。
これは決して難しく考える必要はなく、人それぞれによって強みを2つつくればよいだけの話です。すでに会社で働いている人なら、その会社の仕事を通じてスキルを磨き、プライベートで追究した自分の好きなこともスキル化し、それらを掛け合わせていくと、雲が開けてくるはずです。好きなことがあってこその掛け算なので、その突出したスキルによって、「好きを仕事にすることができる」かと思います。
そして、自分なりのNo.1の形をつくることができたならば、そこからは人生のフェーズが変わって、どれだけ自分が好きなスキルを鋭利に尖らせて、突出した存在になれることができるかの勝負になっていくと考えています。
ブレない「信念」
──そうなると、本業と副業の両立はメリットがあるということですね。
必ずしも副業として設定しなくてもいいかとは思いますが、本業の会社で培ったスキルと掛け合わせていくのは効果的かと思います。ただし、好きなことを追究してスキルを磨いていく際に注意すべき点は、自分の「信念」がブレないようにすること。いまの時代はお金を稼ぐ手段が増えて、マネタイズが気軽にできるようになっています。だからといってお金を稼ぐことに執着してしまうと、信頼を失ってしまいます。自分がどんな思いで仕事をしているのか、なにを成し遂げたいのかを常に意識し、信念に基づいて行動するのが前提かと思います。
例えばインスタグラマーなどですと、すぐにお店が無料で提供したタダ飯を食べて宣伝投稿する人が多いですが、それは本人もお店も結果的に信頼を失います。読者目線で考えれば、ステマっぽい投稿をしている人や、宣伝色ばりばりの投稿をしている人は、なんだか嫌悪感が出てきて見たくなくなってしまいますよね。好きでフォローしていた人が、なんだか「札束で頬を叩かれて本心にない投稿」をしているのを見ると、イッキに興ざめするような感覚です。
だからこそ、発信する立場の人は、タダ飯のような目先の利益に惑わされることなく、継続的に信頼を獲得し、中長期的にマネタイズすることを考えたほうが良いかとは思います。そして、それを実行・実現していくうえでも、ブレない「信念」は大切ですね。
──どんな活動をするにしても、「信念」を持つことが前提条件になるのですね。
就職活動をしていたころを思い出してみてください。面接のときに「あなたが自己実現したいことはなんですか?」と聞かれたのではないでしょうか。あの質問は、あえて極端な言い方をすれば「本来、会社や仕事が自己実現のツール」ということを表しているのかと思います。
どんな会社に入るかではなく、自分の人生にどのような目標を掲げるかが重要です。はじめから明確な目標を持つ人は、そう多くはないと思います。目標がない人は、自分自身が人生において大切にしていきたいことを思い浮かべ、「人を笑顔にしたい」とか「いろいろな人に出会いたい」といった漠然としたものでも構いません。そこから因数分解していくと見えてくるものがあるはずです。そこから導き出した、人生の目標の達成に向けて、自分が成長できる会社を選ぶ。これこそが本来の就職活動の流れだと思いますし、それは会社に入ってからもその初心を忘れないようにしたいものです。
いま、やりたいことが見つからない人、目標を見失っている人は、人生を一度振り返ってみるといいかもしれません。そして、実現したい目標が見つかったのなら、進みたい道に合った仕事ができるよう、会社と話し合う機会を設けると良いと思いますよ。前編で話したように、わたしも以前独立を考えて会社に相談し、その話し合いの場が、会社での「食」の仕事に携わるきっかけになりました。
世の中には、独立してフリーランスになることが「正」と見なされている考え方が一部あるように感じますが、私はそうは思いません。会社と共同で成長していけるなら、会社の規模とネットワークを使いながら、ダイナミックに自己実現していくのが良いと思います。現に、私は電通でそのように実践してきました。ただ、人生には「成長に応じたフェーズ」があるので、前編で述べた理由から「食のスペシャリスト」としての道を邁進すべく、独立を決めた次第です。
──やりたい仕事を任せてもらえるように、会社に交渉することは大事ですか?
「ワークライフバランス」と言われていますが、「ワーク」と「ライフ」って、切り分けて考えてしまうと「ワーク」がストレスになってしまうと思うんです。だからといって「絶対に好きなことを仕事にしろ」というわけでありませんが、やりがいを感じられて、自分の人生のためにもなると思える仕事をしないと、モチベーションが低下してしまいます。さらに自己実現においても非効率です。そういった状況を改善するためにも、会社と話し合う場は必要です。
しかし、その分野でなにも実績をつくれていない人が、望んだ仕事を任せてもらうのは難しい。だからこそ、まずは個人活動でもいいから実績を積み重ねて「旗」を掲げる。そうすれば会社と対等に話せるようになり、好きな仕事を開拓できるようになる。会社で働くことが、どんどん楽しくなってくると思いますよ。
ただし、個人活動ばかりを重視して、会社での役割がおざなりになってはいけません。個人で磨いたスキルを会社にも還元し、双方が信頼し合える、Win-Winな関係を築くことが大切かと思います。
3つの“多”をかける
──はっしーさんは両立してきた電通を離れ、独立の道を決意されましたよね。そんなはっしーさんが、これから自己実現していきたいと考えていることはありますか?
前編でお話ししたような「食のエンタメ化」を生業にすることはもちろんですが、私の歩んできた道のりや、そこで得た価値観や知見を惜しげもなくシェアすることで、いろいろな人の役に立てるのではと思っています。
いままでは「電通」という会社組織に所属していたぶん、正直、なかなか発言しにくい、しがらみのようなものもありました。しかし、これからは「フォーリンデブはっしー」として、自分がどんなことを経験し、どのように人生を切り開いてきたかというのを、いろんな人に伝えることができます。自分の経験を包み隠さずにシェアすることが、誰かの人生を豊かにする手助けにもなる。新しい働き方や新しい仕事の創り方のロールモデルとして、参考にしてもらえたら嬉しいですね。
──はっしーさんの人生が、多くの人の生き方を変えていくことになるのですね。
私自身もまだまだ成長途中ではありますが、苦しい時期を乗り越え、自分なりに楽しく人生をシフトチェンジできてきた自負はあります。やっぱり人生は楽しいほうが良いじゃないですか。だからこそ、誰もが笑顔になれる「食」を通じて、より多くの人に人生を謳歌してもらえたら本望です。
ちなみに、これからの社会は「多様性・多角形・多幸感」の3つの「多」がテーマになると思っています。「多様性」は近年のキーワードになっている通り、それぞれの生き方や働き方を受容していこうという考え。「多角形」はひとつの形に捉われずに、スキルの掛け合わせによって自分なりの形をつくっていく、自分なりの生き方。そして、それによって得られる、個人個人の価値観や人生観にあった多くの幸せを享受できる「多幸感」。
従来の学校教育って、みんなが同じ形であることを求められていましたよね。たとえ望んでいる形があったとしても、周りが三角形であれば、自分も三角形になることを矯正されていました。しかし、今は8角形でも50角形でも、100角形だって認められる社会です。1つの道に縛られることなく、幅広い選択肢が認められる社会だからこそ、自分だけの形を追求すべきだと思います。それが実現できるのも、強みの掛け合わせによる、自分なりのNo.1をつくること。そして、その先にその人ならではの幸せが待っている。多様性・多角形・多幸感、この3つの「多」がクロスする社会。つまり『サンタクロース(3・多・クロス)』と覚えてみても良いかもしれません(笑)。
※3月上旬に、「密閉」「密集」「密接」を避けて取材・撮影しております